受発注DXの効果は、システムを導入したかどうかではなく、対象業務の処理時間や修正件数、電子で処理できた注文の割合などが導入前後でどう変わったかで測ります。比較の前に指標の定義と集計範囲をそろえ、導入後も同じ条件で数字を追うことが基本です。

企画・管理部門が社内に効果を説明する際は、数値の増減だけでなく、取引件数や対象業務、取引先の利用状況も添えて、変化の背景を伝えます。

受発注DXの効果測定で押さえる基本

効果測定の基本

受発注DXの効果は、受発注システムの導入有無だけでは判断できません。注文の受け取りから入力、確認、取引先への連絡まで、業務フローや処理状況にどんな変化があったかを見ます。

最初に、何を測るかを決めます。たとえば、受注入力にかかる作業時間を追うなら、対象の部署・工程・注文を明確にし、導入前と導入後で同じ範囲を集計します。対象範囲が変わったまま比較すると、システムによる変化と業務範囲の違いを分けにくくなります。

IPAの「DX推進指標とそのガイダンス」は、各社がDXの取組状況を把握する指標を定め、たとえば3年後の目標値を置いて経年変化を追う活用例を示しています。受発注業務でも、現状値・目標・測定時点をひとまとまりにすると、導入後の確認がしやすくなります。

比較の基本

導入前に対象業務と指標の数え方を決め、基準値を記録します。導入後も同じ条件で測り、処理件数や取引先の利用状況を添えて変化を読み取ります。

受発注業務のDXとデジタル化の違い

デジタル化とDX

紙や電話、FAXで届く注文を電子データに置き換えるのは、受発注業務のデジタル化です。一方、DXの効果を測るときは、電子化した後に入力・確認・修正などの業務フローがどう変わったかまで見ます。

たとえば、FAXの注文内容を画面に入力する作業が残っているなら、受け取り方法は電子化されても、手入力の工程は残ります。取引先から受け取ったデータを後続の受注処理で再利用できるようになったか、注文内容の確認方法が変わったかなど、解決したい課題に沿って測定対象を選びます。

中小企業庁は、受発注のデジタル化によって、作業効率や人的ミスの軽減、取引記録の検索性向上が期待できると紹介しています。これらを自社の業務に置き換えるなら、「受注入力にかかる時間」「入力内容の修正件数」「過去の取引記録を探す作業」など、変化を記録できる項目にします。

受発注DXで期待される効果と測定上の課題

期待する効果

受発注DXで期待する効果は、測定できる業務の変化に置き換えます。業務効率化なら処理時間、転記ミスの削減なら入力ミスや修正件数、取引スピードの向上なら情報連携にかかる時間が候補です。

中小企業庁の電子受発注システム実証調査では、受発注データの再利用率(誤発注の原因となる手入力の削減率)を効果測定KPIに設定しています。また、受発注各プロセスの企業間(川下・川上)の情報連携リードタイム改善率もKPIに含めています。自社でも、どの工程の手入力や情報連携を変えたいのかを決めると、指標を選びやすくなります。

同調査は、業種横断の実証で、受発注取引件数やマニュアル取引件数率も調査項目として掲載しています。指標を検討するときは、時間やミスだけでなく、電子化した取引の広がりを示す項目も候補にできます。

ただし、導入前後に変化があっても、すべてを受発注DXの影響とは限りません。繁忙期や取引件数の変動、別の業務変更なども記録し、数字の背景を分けて考えます。

導入前に現状を把握し、比較条件を決める

導入前の現状把握

導入前は、受注・発注のどの業務を対象にするか、どの部署や取引先を含めるか、いつからいつまで記録するかを決めます。受注入力だけを測るのか、注文の確認や修正対応まで含めるのかで、処理時間や作業量の見え方は変わります。

次に、指標の数え方をそろえます。修正件数なら、同じ注文に複数回修正があった場合の数え方を決めます。作業時間なら、作業の開始・終了をどの時点とするかを定め、記録する担当者や方法もそろえておきます。

対象業務:受注入力・注文内容の確認
対象範囲:部署・取引先・注文の範囲
指標:作業時間・修正件数・電子処理の割合
数え方:開始点・終了点・件数の単位
基準値:導入前の記録と集計期間

中小企業庁の実証調査では、取引によって工数の変動が大きく、現状工数を特定しにくいことから、業務時間削減率の評価にヒアリングと実証結果を考慮しています。単純な時間記録だけでは比較が難しい業務では、担当者への聞き取りも合わせ、どの工程に時間がかかるのかを記録する方法が考えられます。

基準値の記録方法や対象範囲が導入後に変わると、前後比較の意味が薄れるため、集計条件は先に固定します。

処理時間と業務量を測る指標

処理時間の指標

処理時間の指標には、注文を受けてから処理を終えるまでの時間と、受発注業務にかかる担当者の作業時間があります。前者は取引の進み方、後者は作業負荷を把握する観点です。何を測るかは、解決したい課題に合わせて選びます。

中小企業庁の実証調査は、「受発注プロセス毎」と「受発注プロセス全体」の工数削減率を別々のKPIとし、いずれも実測で測定しています。自社でも、受注入力や確認など工程ごとの時間と、受発注業務全体の時間を分けて見ると、変化した工程を特定しやすくなります。

総作業時間だけでは、注文が減ったために時間が短くなったのか、処理が効率化したのかを区別できないことがあります。処理件数も合わせて記録し、同じ業務範囲・同じ数え方で前後を比較します。具体的な計測範囲や算出方法は、注文記録や作業記録から取得できる項目に合わせて決めます。

中小企業庁が紹介する中小企業共通EDIのモデル実証では、中小企業平均の業務時間削減率は53.3%で、発注企業は56.7%、受注企業は50.8%でした。これはモデル実証の結果であり、自社の目標値や導入効果としてそのまま当てはめず、対象業務や測定条件が異なることを踏まえて参照します。

修正件数・ミス・問い合わせを測る指標

品質の指標

注文内容の修正件数、入力ミスの件数、受発注に関する問い合わせの件数や対応時間は、業務品質や対応負荷を見る候補です。件数の増減だけでなく、処理した注文の件数と合わせて変化を見ます。

修正や問い合わせが減らない場合は、発生理由も記録します。たとえば、数量や納期の入力間違いなのか、注文内容の確認に関する問い合わせなのかを分けると、データの再利用や確認手順のどこを見直すべきか検討しやすくなります。分類は、自社で実際に使う注文項目や問い合わせ内容に合わせます。

中小企業庁の実証調査がKPIとしている「受発注データの再利用率(誤発注の原因となる手入力の削減率)」は、手入力の削減を追う指標の例です。自社で使う場合は、どのデータの再利用を数えるのか、再利用できなかった取引をどう記録するのかを先に定めます。

中小企業庁が紹介するデジタル化の期待効果には、人的ミスの軽減や取引記録の検索性向上もあります。修正件数だけでなく、問い合わせの対応時間や記録を探す作業など、改善したい内容に沿った指標を組み合わせます。

利用状況と取引先への影響を確認する

利用状況の確認

電子で処理できた注文の割合や、取引先ごとの利用状況も、受発注DXの効果を読む手がかりになります。社内の利用だけを見ると、取引先が電話やFAXを続けている状況や、電子化に伴う問い合わせの増加を捉えにくいためです。

中小企業庁の実証調査は、取引総数に占めるメール・電話・FAXによるマニュアル取引の削減率をKPIとし、測定方法をアンケートとしています。自社で電子処理の割合を出す場合も、分母にどの注文を含めるか、電子処理とみなす条件は何かを決め、取引先ごとの利用状況とあわせて記録します。

取引先別に見ると、利用が進んでいない相手や、利用方法に関する問い合わせが多い相手を把握できます。たとえば、電子での注文が少ない取引先について、マニュアル取引の件数と問い合わせ内容を並べると、利用の停滞と社内対応の負荷を一緒に検討できます。

導入後の比較と定期的な見直し

導入後の確認

導入後は、導入前と同じ定義・対象範囲で数値を比較します。処理時間が短くなった場合も、取引件数や対象業務が同じか、取引先の利用状況に変化がないかを添えて確認します。条件が異なる場合は、その違いを明示して解釈します。

IPAは、DX推進指標による診断を年次で継続し、より短期で確認したい指標は自社のマネジメントサイクルに組み込む方法を案内しています。受発注の処理時間や修正件数など、業務上の変化を早めに把握したい指標は、社内の業務確認のタイミングに合わせて追う方法があります。

IPAのDX推進指標は、経営者や事業・DX・IT部門などの関係者が議論し、現状や課題の認識を共有してアクションにつなげるための自己診断ツールとして案内されています。数値を企画・管理部門だけで報告するのではなく、受注や発注の担当者とも変化の理由を確認し、業務フローの見直しにつなげます。

測定頻度や社内報告の時期は、担当者が記録を続けられる運用に合わせて決めます。結果を見て、指標が業務の変化を表していない、または記録の負担が大きいと分かった場合は、対象範囲や数え方を見直し、次回の比較条件を明記します。

まとめ:受発注DXの効果を同じ条件で追う

処理時間や修正件数、電子での取引状況は、導入前に定義と基準値をそろえ、導入後も同じ条件で比べることが重要です。社内に説明するときは、数値の変化に加えて、対象範囲や取引件数、変化の要因も合わせて示します。

最初の一歩として、受注入力や注文内容の確認など、対象業務を一つ決め、担当者が記録できる指標から基準値を取ります。そのうえで、修正の理由や取引先の利用状況も記録すれば、数値の変化を次の業務改善に結び付けやすくなります。

akinAI 編集部

参考・出典